認知症の人が見ている世界を体験する。―作業療法士が体験展で感じた”揺らぎ”の正体

いつかのための暮らしの道具

こんにちは!管理人の作業療法士・ハルです。

皆さんは「認知症」についてどんなイメージを持っていますか?
家族に負担をかけてしまうかもしれない…
大切な思い出を忘れてしまうかもしれない…
これまでできていた仕事や家事ができなくなってしまうかもしれない…
多くの人はそんな不安を感じています。

作業療法士として働くなかで、「認知症」についても学んできましたし、認知症の方と関わる機会も多くありました。ただ記憶障害や不安、徘徊など、言葉で知っている症状への理解はあっても、やはり「認知症の方が見ている世界」は想像で止まってしまう、そんなわだかまりがありました。

今回は、そんなわだかまりを解いてくれるかもしれないという期待とともに、展示会「認知症世界を歩いてみたら。展」を訪ねたレポートをお届けします。

本から飛び出した!認知症の世界を”旅する”体験型展示

認知症世界を歩いてみたら。展は、NPO法人issue+designが手がけ、認知症のある方々が体験している”世界の見え方”を、展示空間として再構成しています。

この展示のベースになっているのは、書籍『認知症世界の歩き方』(筧裕介 著)。

この本は、認知症の世界を”異世界旅行”になぞらえ、当事者の視点から混乱や不安を理解し、介護のヒントを得る内容になっています。2021年の発売以来、累計20万部を突破するベストセラーです。

来場者は、“旅人”として会場を歩きます。記憶や時間、空間、身体感覚——さまざまな「揺らぎ」を体験できる6つのエリアが点在しています。各エリアにはパネルによる症状の解説も展示されており、知識としての解説+体験により、「認知症世界」への理解を深められる仕掛けになっています。

入口に大きく描かれた地図
各エリアのパネルが各症状の解説。体験と知識がつながります。

会場に着くと、入口には子供連れの方からご高齢の方まで、幅広い年代の方が列をつくっており、その関心の高さがうかがえました。

「見えているのにぶつかる」という恐怖

私が会場で最も印象に残ったのが、「サッカク砂漠・服ノ袖トンネル」というエリアです。

このエリアでは、特殊なメガネをかけて、床に書かれたレッドカーペットの上を、人を模した箱にぶつからないように歩きます。机まで着いたら、透明のワイングラスにペットボトルで水を表したビーズを注ぐ、それだけの体験です。

メガネをかけると全体的にぼんやりとした視界になります。でもカーペットは赤くて見えているし、色を頼りにたどれば、箱にもぶつからないはず…。そう思っていました。

ところが…

結果は、2回も箱にぶつかり、グラスに注ぐビーズは1/3ほどがこぼれてしまいました…。

見えているのに、できない。

その感情の揺らぎは、頭で知っているのとはまったく違う切実さで迫ってきました。

視覚情報が少しずれるだけで、身体の動きが信頼できなくなる。ぶつかって転びそうで怖い。見えているのに予測していた結果と違うことが起こった瞬間「なんで??」と不安になる。

作業療法士として”環境を整えることが大切”と学んできましたが、その言葉の解像度が一気に変わりました。

「揺らぎ」は不安だった

もうひとつ、深く印象に残ったのが、スタンプラリーを通して体感できる「揺らぎ」の体験です。この展示では、入口でスタンプラリーへの参加を勧められます。

与えられた5つのミッション

用紙を受け取り、展示パネルに書かれたQRコードを読み込むと、スマホに5つのミッションが表示されます。あとはミッション通りに、会場内にあるスタンプを押すだけ。ここまでは、ふつうのスタンプラリーです。

私のミッションはこんな5つでした

ここでひとつ違ったのが、係員さんからのこのコメント。

画面のスクショはとらないでくださいね。撮るとただのスタンプラリーになってしまいますから。」

どういう意味だろう…と疑問を残したまま会場へ。

展示を見ながらスタンプを発見し、ふとスマホの画面を見た瞬間、あることが起きていました。(ネタバレになってしまうのでここでは伏せますが…)

そのとき、自分の中にさーっと広がったのは、「えっ…??」と全身を駆け巡る焦り。「これちゃんと合ってる?」という不安。そして、「忘れちゃいけない」というプレッシャーです。

それらがほんの一瞬で静かに駆け巡り、「これが”揺らぎ”か」、と思いました。

認知症という診断に至る前の段階。
なんとなくおかしい、でもはっきりしない。
年相応の物忘れかもしれない。

当事者の方はそんな不安を抱えながら、こうした感覚の中にいるのかもしれない。この「揺らぎ」の時期が”不安”という感情としてこんなにもリアルに迫ってきたのは、初めてのことでした。

「感じる」ことが、理解のはじまり

認知症のある方の世界を「理解したい」と思っても、日常の中でその機会はなかなかありません。でも、知識として頭に入れることと、身体で感じることは全然違う——この日、そのことをあらためて実感しました。

この展示は全く身構える必要はないと思います。認知症を怖れたり、対策を考えたりする場所ではなく、ただ「こんな世界があるんだ」「こんな世界が見えているんだ」と受け取るだけでいいのではないかと思います。

メニューの文字がこんな風にみえているかも…
踏んだら落ちそうになる床               目当ての柔軟剤見つけられる…?

旅人として会場を歩きながら感じた、”揺らぎ”の中にある感覚。その感覚が、きっとやさしい理解のはじまりになる。そう感じた展示会でした。

より深く知りたい方は書籍もおすすめ

この展示のベースになった書籍『認知症世界の歩き方』では、当事者の方々の語りをもとに、認知症のある方が体験している世界がていねいに描かれています。展示会は終わってしまいましたが、展示に行けなかった方も、そしてもう一度あの感覚に触れたい方にも、おすすめの一冊です。

また2026年秋には、実写版映画『認知症世界の歩き方』が公開予定との情報も。こちらもぜひチェックしてみてくださいね。

それではまた!

▼展示会について
「認知症世界を歩いてみたら。展」
主催:NPO法人issue+design/NPO法人ボーダレスファウンデーション
会期:2026年5月1日~5月7日【終了】
詳細:https://issueplusdesign.jp/dementia_world/exhibition/

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