小さな修繕がはぐくむ毎日

日々を編む

「ママ!これ取れちゃいそう!」

朝の慌ただしさの中、外れそうになっている制服のひとつのボタン。
「取れないかな…」と少し不安げな子どもに、「夜に直すから大丈夫だよ」と応えて送り出す。

子どもが寝静まり、静かな夜がやってくる。
”頼まれていたボタンをつけなくちゃ”
子どもと一緒に眠りかけた重たい体を起こし、戸棚から裁縫セットを取り出す。

かろうじてくっついている小さなボタンの糸をチョキンと切り、糸くずを丁寧にとる。
針に糸を通したら、同じ場所にボタンを重ね、針をそっと通す。
布に刺さる抵抗感を感じながら、外れないようにボタンを縫い付けていく。

静かな夜に、糸の擦れる音が響く。

幼稚園に入園した頃はぶかぶかだった制服も、今ではちょうど良いサイズになった。この制服が、これから小学校のシャツや中学のブレザーに変わり、ボタンをつけ直すのもやがては子ども自身でできるようになっていくのだろう。

日々の生活にある、目立たないけれど欠かせない、小さな修繕。
ボタンをつけ直すこともそのひとつだ。
誰かのために整えておく行為は、きっと明日には忘れられてしまう。それでも、この瞬間に手を動かすことが、確かに暮らしを形づくっている。

最後の糸を結び、余分な糸を切る。指先に残ったわずかな糸の張りが、作業の終わりを告げる。

明日の朝、子どもが制服に袖を通すとき、あの小さなボタンはもう何の不安もなく、胸元でひっそりと役割を果たすだろう。

ー暮らしをつくる、今日の作業ー
ボタンをつけなおす

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