パチン、パチン。
それは、自分を手入れする音。
引き出しからいつもの爪切りを手にとり、明るい窓辺に座って爪を切りはじめる。
爪が伸びたことに気が付くのは、指先を見つめるときだ。爪の先がほんの少し白く伸びたのを見て、前に切ったときからそんなに日が経ったのかと気づく。
洗い物をしたとき。床に落ちたご飯粒を拾うとき。カタカタとキーボードを打つとき。
指先を見るとき、そこには必ず毎日の暮らしの一場面が浮かぶ。
何気なく動かしているこの十本の指が、毎日どれだけ自分を支えてくれているのか、爪を切るたびにふと思い出す。
自分の爪を切り終えると、次は子どもの番。
ついこの間切った気がするのに、あっという間に白く伸びた小さな指たち。爪切りを取り出すと、ちょこんと膝の上に座ってくる。パチンともいわない、まだ柔らかい小さな爪。
”掻いたときに傷にならないように” ”爪をひっかけて怪我しないように” そんな親心が隠れていたことを、自分が親になってようやく知った。
爪を切り終えたら、表面をやすりでなぞる。指で爪先をなぞって、滑らかになったのを確かめる。切った爪の欠片をそっとティッシュに包んで、さよならする。
爪を切る。たったそれだけのこと。
でも、その「それだけ」のことが、自分なりに日々がんばって暮らしてきた証なのだ。
爪を切りながら、そっと自分を褒めてあげるのもいいかもしれない。

ー暮らしをつくる、今日の作業ー
「爪を切る」